Column :: vol.8 | 日本家屋と心の関係
元気がなくなる家
ホリエモンの体験談
現代の居住施設の中で最も元気がなくなる空間は、私自身は経験はありませんが、拘置所であり独房であると思います。
頑丈な鍵がかかった鉄の扉と外界の様子が殆どわからない小さな窓、もう二度とこのような場所で生活したくないと思わせる空間であることが想像できます。
あのホリエモンが東京拘置所での生活における居住性の悪さを指摘しながら二度と入りたくないと感想を述べています。居心地が良いとリピーターが増えて困ります。(余談になりますが、身寄りのない老人が無銭飲食等の軽犯罪を再犯することで刑務所へ逆戻りするケースが増えていることが報道されていました。厳しい 娑婆(シャバ) の世界より三度の飯が保障されている刑務所の方が快適ということか?)
ところが昭和30年代後半から、建設された住宅を振り返るときまるで拘置所のような平坦で個性のない画一的な住まいが大量に建設されました。急激な都市化に伴う量的不足を解消するために、規格化、工業化、量産化といった供給者サイドの利益を最優先させ、そこに住まう生活者の視点を軽視した公営公団住宅やハウスメーカーのプレハブ住宅が建設されました。
食寝分離、個室の確保を主眼に置き、天井の高さが均質な部屋に機能が無理矢理与えられた3LDK、4LDKといった個室の数や面積だけで住宅の価値を表す住宅は、心の逃げ場をなくしてしまいかねません。
このような間取りは、元気がなくなるだけでなく心の病気を引き起こす可能性も秘めています。心の逃げ場のない均質な拘置所のような住宅で育つ子供達が、元気がなくなり鬱病になったり、逆切れ、家庭内暴力を起こしたり、親は親で子供を虐待したりとまるで悪魔の館のようです。 心の状態が不健康になりかけた時に、独立動線によるプライバシーが確保されすぎた均質な個室を与えられると、日本の子供の場合は引きこもりや逆切れ、親が子供部屋に入るのに許可がいる等の弊害が起こってしまうのではないでしょうか。
元気がなくなる要素
元気がなくなる要素として、空間と心理の相関関係を研究している昭和女子大学の友田博通教授は、元気がなくなる要素として
- 機能が限定されている
- 部屋の天井の高さや広さが均質
- 空間の可変性がない
としている。
「人の気配も分からず、心の逃げ場のない家」は元気がなくなるだけでなく、家族関係や心の問題に大きく関わっているのです。
元気の出る家
モデルルームで遊び出す子供達
これまで街開きに合わせて、いくつかのモデルルームを設計してきました。住み手が定まっていないモデルルームにおいて設計者が最も苦労する点は、住み手のライフスタイル、趣向性、家族構成、デザインの方向性等をどう設定するかにあります。モデルをオープンした時の来場者の反応が即その街の人気に直結し、事業の成否を決定づける大きな要因にもなります。
もちろん街の評価は、分譲価格、立地、ロケーション、景気、周辺供給状況等、様々な要因によって決まっていくものですが、少なくともこのような家に住んでみたいと思っていただけるようなものを提案することが重要となります。
常に来場者の反応が気になるもので、モデルルームを案内することもしばしばです。そこでふと気づいたのが、子供達の反応です。親と一緒に来た子供達が、モデルルームに入るや否や親の制止をふりきって、モデルルームで遊びだしたのです。
階段を登ったり降りたり、ぐるぐる回って鬼ごっこをしたりと最近の子供は躾(しつけ)がなってない、モデルルームのディスプレイが乱されると心配したりしました。しかしその子供をよく観察してみると、子供は遊びの天才で、実に楽しそうにモデルルームのあちこちから顔を出したり、隠れたり、ひとときもとどまることはありません。私自身が子供の頃親戚の法事で集まった時、同い年のいとこ達とタタミの上でプロレスごっこや隠れんぼうをし、襖や障子をボロボロにしたことを思い出しました。
8帖、6帖、6帖、6帖と縁側がある田舎の典型的な田ノ字型プランの住宅は、建具を取り払うと26帖畳(タタミ)マットのプロレスに最適な道場と化していました。
ここでふと気づいたことは、モデルルームに来た子供達がその様々な空間を利用して遊びのステージを創造していく時、楽しく豊かに創造できる空間のあるモデルルームに入ると、子供達は元気になり遊び始めるのではないかということです。
そのモデルの内部空間は、リビング・ダイニングが半階ズレたスキップフロアー住宅で、天井の高い(H=4.0m)リビングルーム、天井の低いタタミロフト、その上部に浮かぶような半階上がったダイニングルームと和室、各々のつながり空間を大切にしたコンセプトモデルでした。個室や夫婦の寝室以外は、家全体が半階ずつずれながら立体的につながって、家族が家のどこにいても何となく一緒にいる感じで生活できることを狙ったものでした。子供達はこの不思議な空間に反応したものだと思われます。
モデルでとびまわって、あちこちから顔を出したり、隠れたりぐるぐる廻りながら、半階ずつの階段を登ったり、降りたり、座ったり。その楽しそうにしている我が子の姿を見て、親も子供心に返って楽しい気持ちになる。さすがに親は飛んだり跳ねたりしないものの、心の中ではきっと自分の子供の頃、家で遊んだイメージと重ねあわせているのではないでしょうか。子供が楽しく遊んだモデルルームは、街づくり事業としてもすべて大成功しています。
子供が楽しく遊んだモデルルーム
元気の出る家
様々なモデルルームを設計する中で、子供が元気になる空間には、いくつかの特徴があり分類してみました。
- 家中をぐるぐる回れるループ動線が、家の中心にあること。
- そのループ動線上に、様々な部屋や階段や隠れスポットがあること。
- 天井の高さに変化があり、その組合せによって平面的にも立体的にも、巧みにつながっている空間構成となっていること。
- 天井が高くて、広くて明るい空間があること(主にリビングルーム)。
- 天井が低くて隠れてこもることができるような隠れ家、秘密基地があること。
- ちょっとのぞいたり、顔を出したりできる小窓や、ポツ穴、スリット等があること。
- 汚しても傷つけても大丈夫な空間があること。
- 空間の序列を感じる工夫がされており、段差を利用してステージ的に使ったり、飛び降りたり、腰かけたり、お殿様みたいに一段上がったところで横になったりできる優越空間があること。
- プロレスごっこができる大空間のタタミやマット部屋があること。
- 見晴らしのいい場所や、太陽や星空の天空を専有できる庭やテラス・天窓があること。
これらは子供が元気になる空間として取り上げました。 当然、感性が鈍ってしまった大人にも、同じことが言えるのではないでしょうか。元気の出る家のヒントは、子供達が楽しく遊ぶ家を考えるとうまくいくかもしれません。
次回のコラムは『アウトソーシングと近代化』です。お楽しみに!