Column :: vol.9 | アウトソーシングと近代化

アウトソーシングしてしまった社会生活

大阪の長屋 / 寺内 信 INAX

これまで住まいの変遷を日本アニメ、子供の問題行動、本来の日本家屋の良い点、元気がなくなる家、元気の出る家等、様々な観点から近代化の中で私達が失なってしまったものを考えてみました。それとは別に、かつては家族、親戚、隣近所、町内会で助け合いながら行なっていたものを、近代化の中でアウトソーシング(外部業務委託)してきた結果として、失なったものもたくさんあります。

隣近所、「結」や「組」、「町内会」で助け合いながら行なっていたものとして、

1. 道路の清掃
自分の家の前の道路、路地は自分達で清掃し水打ちをしていた。
2. ゴミの処理
江戸期にすでにリサイクルの概念が確立され、ゴミとして捨てることが少なく、食品、その残飯処理、衣類、雑貨、人糞に至るまでリサイクル処理のシステムが確立しており、各家庭であるいはコミュニティ単位で処理していました。
3. 消防
町内会で火消しが組織されるのが当たり前で、江戸期の火消し人足は1万人近くで、住民自身の責任において運営されていました。
4. 治安
人口当りの治安に従事する役人の数は現代に比べると極端に少なく、江戸の行政全般を担当していた奉行所の侍達すべて合わせての数百人程度でした。その体制ですべてをカバーすることは不可能であり、治安は住民が主体となっていました。テレビ時代劇にある "遠山の金さん" は実際とは違っており、治安に従事する役人が少ないためかなりのオーバーワークで、 "金さん" のように庶民に紛れて遊ぶ暇はなく、過労死する役人もいたそうです。
5. 公共事業
江戸期は治山、治水、道路整備等は、幕府や藩、政府がプロジェクトを立ち上げ、工事は住民の負担で行なっていくのが一般的でした。現代でも農業に関する溜池、水路、農道等の修繕・管理は、村単位となっている所もあります。
6. 教育
寺子屋江戸期の寺子屋、親の教育、躾等、現代とは比較にならないほど自己責任と自由度のバランスがとれていました。幕末江戸の就学率は70〜80%であり、当時のヨーロッパよりはるかに高く、今安倍内閣がテーマとしている教育の再生のヒントはこの時代にありそうです。
7. 子供・高齢者の面倒見
近所の子供は近所の中で安全を確保し、両親が不在の場合はお隣で面倒を見ることが、ごく当り前のように行なわれていました。託児所、保育園、老人ホームがなくても地域の中で対応してきました。

 


これらは現在は行政が中心になって対応しています。それまで個人、家族、小さなコミュニティ単位で自己責任の中で小規模に行なっていたものを、国が集中的、中央集権的に計画、実行し、様々な規制や基準を設けて管理しています。 国土を効率的かつ均質な近代化を進める上では最も都合が良かったといえるでしょう。こうして何でも国家が面倒を見てくれることに慣らされてしまいました。 "お隣の暮らしぶりがすべてわかってしまうコミュニティ" の煩わしさから開放された現代人は、気楽で気ままで自由な自己中心の生活を手に入れました。『プライバシー』という言葉が流行したのも1961年のことでした。

part2につづく …… 次回おたのしみに